オリエント工業の歴史を振り返ると、製品の進化を支えてきたのは、造形や構造の工夫だけではありません。肌にあたる素材を見直すことも、使いやすさを追求するうえで重要なテーマでした。
創業20周年を迎えた頃に登場した「明日香」は、そんな素材の転換期を象徴するモデルです。ソフトビニールという新たな選択肢が、その後の製品づくりにどのような道を開いたのでしょうか。

使いやすさを見つめ直す、素材への挑戦
当時、ドールの表皮素材として主に使われていたのはラテックスでした。柔軟性を持つ一方で、汚れが付きやすく、きれいな状態を保つためには手入れに手間がかかるという課題がありました。
長く愛用してもらう製品を目指すなら、見た目や造形だけでなく、日常的な扱いやすさも欠かせません。オリエント工業では、こうした課題を改善するため、ラテックスに代わる素材としてソフトビニールの導入を検討していました。
素材の変更は、単に原材料を置き換えるだけではありません。成形方法や製造工程、製品としての仕上がりなど、さまざまな面を見直す必要があります。新素材を実際の製品へと結びつけるには、試作と検討を重ねることが欠かせませんでした。
20周年記念モデル「明日香」の登場
ソフトビニールの導入に向けて開発が進められていた試作ボディ。その試作をベースに誕生したのが、キャンディガールシリーズの「明日香」です。
明日香は、オリエント工業の20周年を記念するモデルとして、期間限定で販売されました。当時の販売価格は168,000円。記念モデルであると同時に、新しい素材を製品へ取り入れていく過程を象徴する存在でもありました。
「明日香」の主な特徴
販売価格:168,000円
関節構造:特殊金具による関節可動方式
眼の仕様:ウインクEYEによる可動式
頭部構造:頭部とボディはソフトビニール成型で、他の頭部との互換性はなし
関節には特殊金具を用いた可動方式が採用され、眼には「ウインクEYE」が使われていました。一方、頭部とボディはソフトビニール成型で作られており、他の頭部と交換して使うことはできない仕様でした。
このように、明日香には当時の製品づくりにおける構造上の特徴と、新素材への挑戦がともに表れています。現在の製品と比べると異なる点もありますが、当時の技術や設計思想を知るうえで、興味深いモデルといえるでしょう。
ソフトビニールがもたらした変化
ソフトビニールの導入によって期待されたのは、素材そのものの変更だけではありませんでした。ラテックスと比較して汚れが付きにくく、手入れをしやすいことに加え、製造コストを抑えられることも大きな利点でした。
日常的なメンテナンスの負担を軽減しながら、製造面でも新たな可能性を広げる。こうしたメリットを持つソフトビニールは、明日香以降の製品にも採用され、やがて定番モデルを支える素材のひとつとなっていきます。
明日香は、20周年を記念した期間限定モデルという位置づけにとどまらず、オリエント工業が素材の可能性を探り、次の製品づくりへと進んでいく節目を示す存在でした。
「明日香」から始まる、新たな時代
製品の歴史をたどると、進化のきっかけは必ずしも外観の大きな変化だけではないことがわかります。汚れにくさ、手入れのしやすさ、製造工程への適性。使う人の視点と、つくる側の技術的な課題。その両方を見つめ直すことが、新しい製品を生み出す力になります。
ソフトビニールの導入を見据えて誕生した「明日香」は、オリエント工業にとって、素材の転換を象徴するモデルとなりました。そして、この挑戦をきっかけに、ソフトビニール製品が定番モデルとして展開される時代が始まっていったのです。









