「微笑」から5年。
オリエント工業は、次なる一歩を踏み出しました。
1977年に「微笑」を発売した後、オリエント工業には、製品を実際に使用したユーザーからさまざまな声が寄せられるようになりました。
その内容は、製品そのものに対する感想だけではありませんでした。人生のさまざまな事情を抱える中で、ラブドールとの時間によって心が救われた、支えられたという声もあったといいます。
こうしたユーザーからの言葉は、オリエント工業がラブドールをどのような存在として考えていくのか、その方向性にも大きな影響を与えていきました。
「人の心に寄り添う人形」という考え方
製品を作ることだけではなく、人の心に寄り添い、支えとなる人形を届けること。
「微笑」の発売をきっかけに寄せられたユーザーの声を通して、オリエント工業が大切にする活動の主旨は、少しずつ明確になっていきました。
その考え方は、製品そのものだけでなく、購入を検討する人との向き合い方にも表れています。
当時、オリエント工業は「上野相談室」を設け、現在の上野ショールームへとつながる場所で、製品についての説明だけでなく、購入を希望する人の相談に応じることもありました。
単に製品を販売するのではなく、一人ひとりが抱えている事情や悩みに耳を傾ける。
この姿勢は、オリエント工業の歴史を振り返るうえで、製品の技術的な進化と同じくらい重要な要素だったと言えるでしょう。

第2号製品「面影」の誕生
「微笑」の発売から5年後となる1982年、オリエント工業は第2号製品として「面影」を発表しました。
その名前には、あるユーザーの存在と、その人が綴った手記が関係しています。
愛する妻を亡くしたというユーザーが残した手記。その中に綴られていた想いから、「面影」という名前が生まれました。
大切な人を失ったあとも、その人の記憶や姿が心の中に残り続ける。
「面影」という名前には、そうした人の心に残る存在を思わせる意味が込められています。
「面影」という名前が示すもの。
それは、単なる製品名ではなく、人と人との記憶や想いに寄り添う存在としてのラブドールを考える、ひとつの象徴でもありました。
空気式から、空気を使わない構造へ
「面影」で大きく進化したのが、身体の構造です。
表皮にはラテックス、ボディ内部には発泡ウレタンを採用。前作「微笑」にあった空気式の構造から、空気を使わない構造へと改良されました。
当時のダッチワイフには、空気を入れて膨らませて使用する製品というイメージが強くありました。
そのような時代に、空気に頼らないボディ構造を採用した「面影」は、大きな転換点となる製品でした。
空気漏れという問題から解放されたことで、耐久性の面でも大きな進歩を遂げています。

より人肌に近づいたラテックス製ボディ
ラテックス製の表皮を採用したことは、単に空気漏れをなくすためだけの変更ではありませんでした。
ラテックス特有の弾力性によって、触れたときの感触も大きく変化しました。
ソフトビニールを使用していた「微笑」からラテックスへ。素材そのものを変えることで、身体に触れたときの柔らかさや弾力感がより人肌に近いものへと進化していきました。
また、収納性についても考慮されており、両腕・両脚を取り外せる構造が採用されています。
これは、実際に所有する人がどのように保管するのかまで考えられていたことを示す工夫のひとつです。
「面影」に見る大きな進化
・空気を使わないボディ構造
・ラテックス製の表皮
・弾力性のある、より人肌に近い質感
・両腕・両脚を取り外せる収納性
身体だけではない、外見へのこだわり
「面影」の進化は、素材や内部構造だけにとどまりません。
外見についても、当時としては細かな工夫が取り入れられていました。
髪には人毛100%を使用し、目には可動式の構造を採用。
単に「人間らしい形」を再現するのではなく、より自然な存在感を感じてもらうために、細部まで工夫が重ねられていました。
そして、顔立ちにもひとつの考え方がありました。
誰もが振り返るような、いわゆる「絶世の美女」を目指すのではなく、長く一緒に過ごしても飽きがこず、自然と愛着を持てるような顔立ちが選ばれています。
これは、「面影」という製品名にも通じるものがあります。
一時的な美しさだけを追求するのではなく、長く身近に置き、時間を重ねる中で愛着が生まれる存在を目指す。
「面影」には、そうした製品づくりへの考え方も表れていました。

「微笑」から「面影」へ。5年間で何が変わったのか
1977年の「微笑」から、1982年の「面影」へ。
わずか5年の間に、オリエント工業のラブドールは大きな変化を遂げました。
「微笑」では、ソフトビニールや軟質ウレタンなどを部位ごとに使い分けながら、耐久性や質感の向上が試みられていました。
一方、「面影」ではラテックスと発泡ウレタンによる、空気を使わない構造へと進化。
さらに、人毛100%のヘアや可動式の目、収納性を考慮した分離構造など、使用感だけでなく、所有することそのものまで考えた工夫が見られるようになりました。
「面影」は、単なる第2号製品ではありませんでした。
「微笑」で見つかった課題を次の製品へとつなげ、素材、構造、質感、外見、そしてユーザーとの向き合い方まで、一つひとつを進化させていった製品です。
「微笑」から「面影」へ。
この5年間の変化は、オリエント工業がユーザーの声に耳を傾けながら、より長く、より身近に寄り添える人形を目指してきた歩みそのものだったのです。









