
東京都内、下町エリアと呼ばれる某所に、オリエント工業の工場がある。
工場の外観だけでは、何を作っているのか全く分からない。
ここで、日々ラブドールの製造が行われている。
液体から肉体へと
ラブドール製造のほとんどの工程は、熟練のスタッフによる手作業で行われる。
まずはシリコン注型という作業。シリコン注型では、ドールのボディ部分を成型するための型枠に、とろとろとした液体状のシリコンを流し込んでいく。
シリコンを流し込む前の型枠には、軽量化をはかるためのウレタン、関節を可動させ、さまざまなポージングを可能にするための骨格が組み込まれている。その詳細については企業秘密となっている。
皮膚の薄皮一枚を
ボディの型枠は、ドールの身長やバストサイズによって異なるため、たくさんの種類が準備されている。ちなみに、バストサイズは大きめタイプのほうが人気。
なめらかな肌感を生み出すシリコンは、オリエント工業のラブドール用の特注品。配合は長年試行錯誤したもので、これも企業秘密となっている。
次に、液体状のシリコンを硬化させる。シリコンを流し込んだ型枠を、一晩専用の窯に入れて加熱。そうすることで化学変化が促進され、シリコンが硬化する。液体状だったシリコンが固まると、ドールのなめらかな皮膚になる。
翌日、一晩かけて硬化させたボディを型から外す。これを脱型という。
型枠のつなぎ目にあたる部分には、バリと呼ばれるふちからはみ出たシリコンが残るため、これを取り除くバリ切りという作業をていねいに行う。
バリ切りを失敗するとボディに傷がついたり、裂けたりする原因となってしまうため、非常に神経を使う重要な工程。熟練のスタッフが専用のはさみを使い、慎重に行う。
バリ切りが終わり、表面をきれい整えたボディには、いよいよ塗装(ボディメイク)が施される。
塗料という名の血流が
乳房やひざ、かかとなどの部位以外にも、一見分かりにくいが、ごくわずかな塗装がなされている。シリコンで作られた皮膚そのままだと色が均一すぎるので、ボディのさまざまなくぼみやふくらみの影となる部分に、自然な陰影の塗装を施す。この作業によって、より人間らしい自然な立体感が生まれる。
塗料はシリコンベースに顔料を混ぜた特殊なものを少しずつ吹き付けて行う。乾けば濡れても落ちにくい。
塗装は一旦濃くしてしまうとやり直しがきかないため、少しずつ、慎重に行われる。乳首などもほんの少しずつ色を重ねていくという熟練の技が必要となる。ボディメイクには、静脈を描く血管メイクのオプションもある。
続いて、アンダーヘアの植毛を行う。中心の部分はピースと呼ばれるものを使うが、外周の部分は数時間かけて手作業で一本一本埋め込んでいく。実際に植毛することで、毛根の部分がシリコンを通して青っぽく透けて見えるため、よりリアルに近づけることができる。植毛を終えたら、ヘアをていねいにカットする。
母が愛娘に紅をさし嫁いでゆく
ボディと並行して、頭部の製作が進められる。ボディと同様に、中に芯材が組み込まれた型枠にシリコンを流し込む注型、脱型、バリ切りの工程がていねいに行われる。
顔は人形のイメージを決める最も大切な部分。頭部に眼球を埋め込んでから、丹精を込めたメイクを施していく。
顔のメイクもボディメイクと同じように、シリコンベースに顔料を混ぜた塗料を使って、まずは自然なくすみ、陰影をつけていく。
それが終わると、目、眉、口などの部分メイクに取り掛かる。メイクは1カ所をいきなり100%完成させてしまうと印象が決まってしまうため、絵画のように全体のバランスを調整しながら、少しずつ、ていねいに進められる。ちなみに、1つの頭部のメイクが完成するまでに4日間ほどかかる。
でき上がったボディと頭部をジョイントしたら、ドールの完成。専用の段ボールに大切に梱包され、お客さまの元へ旅立っていくのだ。






