ヴァニラ画廊/田口葉子

「人造乙女博覧会」のきっかけ
私どもヴァニラ画廊の展示は、企画展の開催が多いので、何かいい企画はないかと考えていたとき、たまたまオーナーがマネキンの写真集を見せてくれて、非常におもしろいなと思いました。それまではマネキンを美術品としてとらえたことがなかったのですが、創作物としてのおもしろさを感じました。それから、工業製品の人形が美術になりうるのではないかと思い、作家が作る創作人形ではなく、工業製品として人形を作っているオリエント工業さんを思い出しました。個人的な趣味で、昔からオリエント工業さんのドールをホームページで拝見していましたが、実際のドールを見たことはありませんでした。
ラブドールメーカーは国内でも何社かありますが、オリエント工業さんのドールの美しさは、ホームページの写真でも飛び抜けていて、オーナーや上司が企画に賛成してくれたのもあり、企画書を持ってオリエント工業さんのショールームを訪ねました。
実際にラブドールと対面して、その造形力やエロティックな魅力、作品のラインナップの豊富さ、そしてもの凄いクオリティーのドールに圧倒され、ぜひ展覧会を開催したい旨をその場でお伝えしました。
当初オリエント工業さん側は「ラブドールは美術品ではなく工業製品だから、ギャラリーに並べて飾ることに意味があるのか」と躊躇されたようですが、土屋社長の男気ある決断と多大なご協力をいただき、第1回の「人造乙女博覧会」を開催することができました。
意外に多い女性の来場者
「人造乙女博覧会」は2007年から2014年まで4回、2016年は「人造乙女美術館」として、計5回の展示を開催しています。人形作品としての完成度の高さをお客様に感じていただけるよう、構成などをオリエント工業さんとご相談を重ねて展示を行っています。
やはりアダルト商品ということで、そちらからの興味で来場してくださるお客様もいらっしゃいます。ですが驚いたのは、美大生をはじめ、もの作りや造形に携わっている方々の来場が非常に多かったこと。オリエント工業さんがいかにもの作りに関わる人々から注目されているかを、肌で感じました。
初回から女性の来場者も多くいらっしゃって、女性比率は回を重ねるごとに増えている印象があります。女性はドールに対して、かわらいしいとか、着せ替えをしたいとか、精神的なお人形遊びの延長線上で楽しみたいという感覚があると思うんです。しかし最近の展示では、一つのアイコンとして「オリエント工業のドールのようになりたい」という若い女性の来場者が増えている印象があって、興味深く感じています。やはり人形には永遠の美しさがあるので、そういった部分にもあこがれるのかもしれません。
ドールの顔が変化していく
印象的なエピソードがあります。
来場者の中には、実際のラブドールユーザーさんもいらっしゃいます。というのも、展示には毎回最新モデルを提供していただいているので、「うちの実家の娘の最新バージョンはどんな感じだろう」と足を運んでくださる方が多いようです。
みなさん温かく見守って下さるという感じで、熱心だし、ドールへの愛を感じます。
ユーザーさんが撮影したドール写真を見せてもらうことがあるのですが、お迎えした初日の写真、3週間後の写真、3ヵ月後の写真と、ドールの顔がまったく変わっていることに驚きました。たとえば、1日目は商品としての顔、3週間後はなんだかほっとしている顔、そして3ヵ月後には、完全に彼女の顔になっている。
私はもともと、オカルト的なことには興味はありますが、信じてはいません。
そんな私でもドールの明らかな変化を目の当たりにしました。撮り方もあるのかもしれませんが、ここまで変わるものかと驚きました。
最新の美女がそこにいる
オリエント工業さんのラブドールの魅力のひとつに、古くならないことがあると思います。
一般的な理想の女性美は、流行りすたりがあって、毎年モデルチェンジしていくようなところがあります。オリエント工業さんのドールは、常に最新の美しい女性像を的確に提供してくれます。新しい商品のクオリティーは、いつも期待をはるかに超えています。
かといって、旧モデルもまったく古さを感じさせず、どれも魅力的です。そのとき流行った顔というのは1年経つと少し違和感を感じるものですが、決して古くならない。
これはオリエント工業さんの造形のすごみだと思います。しかも、多くのユーザーのニーズにきちんと応えている。女性美に対する見識の深さとセンスの鋭さを感じます。
エロとリアルの絶妙なバランス
また、ドールたちの顔立ちにしてもボディにしても、虚実のバランスが絶妙です。たとえば巨乳なのに下品にならずに、造形としてぎりぎりのラインを突いてくる感じです。十分美しくてセクシーだけれど、実在感もきちんとある。
だから一緒に暮らす人形として、成立するのだと思います。
エロとリアルという虚実の部分が、うまい具合にミキサーにかけられたような、そこがオリエント工業さんのセンスだと思います。土屋社長をはじめ社員の方々に、その抜群のセンスとドールへの愛や、ユーザーさんへの心配りがあるからこそだと思います。
とがった部分のないやわらかさ
触らなくてもそのやわらかさというか、質感がわかるところも、オリエント工業さんのラブドールの不思議な魅力です。表情や体のライン、肌の感じなど、すべてにおいて鋭角なところ、とがった部分がないんです。
一般的な創作人形は、作家が人形に自分の思いを込めて制作します。ですから作家のメッセージ性のようなものが造形に表れて、どこか突出した部分があり、それが創作人形の魅力です。しかしオリエント工業さんのドールは、それらをあえてそぎ落としているところがあると思います。それこそが、大きな特徴になり、創作人形では表現できない器としての人形の美しさが生まれてくるのだと思います。
生きているかのような実在感
美術品もそうですが、創作人形は数ミリの距離まで近づくことはありません。
対してラブドールはその性質上、数ミリの距離まで近づいて愛でるもの。顔立ちにしてもメイクにしても、いわゆるヒトガタとしての嘘っぽさを感じさせないことが大切だと思います。
オリエント工業さんのドールは、遠くから見ても近づいて見ても、息をしているようなリアルさを感じます。造形だけ見たらある程度デフォルメされたSF的な存在なのに、なぜか生きているように見えるんです。
最先端技術を駆使したロボットが、なかなか不気味の谷を超えられないのに、オリエント工業さんのドールは、デフォルメされているのにリアル。多くの人が超えられずにもがいているところを一足飛びに越えられるのは、確かな造形力はもちろん、人間が快いと感じられる感覚を大切にされているからだと思います。
美術的な感覚というのは人それぞれですが、私はオリエント工業さんのラブドールは美しい作品だと思っています。そしてそんなドールたちと一緒に暮らせるなんて、ユーザーさんが羨ましいかぎりです。
これまでも期待値を超えたとてつもないクオリティーのものを世に送り出してくださっているので、これからのドールもとても楽しみにしております。
今後また展覧会の機会をいただければ、来場者の方々がドールをほしくなるような展示を心がけたいです。立体の造形物として、その存在感や造形のクオリティーをぜひたくさんの人に見ていただきたいと願っています。






