
1.歯科実習用ロボット「昭和花子2」
実際の治療を疑似体験
オリエント工業が製作に携わるのは、ラブドールだけではない。
「昭和花子2」は、主に大学病院での臨床実習に使われている歯科患者ロボット。昭和大学と「昭和花子2」の株式会社テムザックが開発、オリエント工業が造形を担当している。昭和大学歯学部では2011年4月、世界で初めて歯科患者ロボットを臨床実習のカリキュラムに導入した。
歯学部の学生たちはさまざまな知識や技術を学ぶが、実際の患者に相対することはあまりない。そのため、実際の治療を体験することが少ないのだ。しかし、実際の患者は動くし、意思とは関係なく反射的な動作や反応をする。それが、医療事故につながる可能性もある。
生きている人間と同じように反応する歯科患者ロボットで臨床実習を行うことで、実際の治療を疑似体験し、医療事故を回遊する能力を身につけられるというわけだ。
リアルの追究が臨場感を生む
昭和花子2の外見は、ロボットとは思えないほどリアル。歯科用ユニットに横たわる姿は、若い女性そのものだ。ロボットが女性モデルである理由は、治療中の患者への胸部接触などに配慮を促すためでもある。
昭和大学歯学部教授の根宏太郎氏は、「ロボットの顔などどうでもいいという人もいるかもしれないが、リアルな造形がもたらす臨場感は非常に重要。ドクターや学生が生体と同じ緊張感をもって練習することができる」と語る。
いかにもロボットという外見では、学生たちは対ロボットの実習しかできない。リアルさをとことん追究することで、学生たちはロボットを生身の人間として感じながら実習が行える。
実際の患者を治療しているような臨場感こそが、真の歯科技術の向上につながるというわけだ。
患者の反応を再現!
昭和花子2は、ロボット技術によってさまざまな反応をする。
治療前には「あまり痛くしないでください」などと話す。口を開けてと話しかけると、口を開ける。治療がはじまると、つい舌が動く。ときには「痛いです」と言いながら顔をしかめる。喉奥まで器具を入れると、反射的に首を振って避けようとしたり、嘔吐反射(喉の奥に異物が入るとウェッとなる動作)が起こったりする。治療中に咳やくしゃみをする。痛みに反応して左手を上げる。一定間隔で瞬きをする。口を開け続けていると開口疲労が起こる。
これらはまさに治療中の患者のリアルな反応だ。実際の患者の動きを熟知している歯科医師たちも、そのリアルさに驚いたという。
また、手首で脈を測ることもできる。これは治療中に患者の気分が悪くなったとき、脈拍を測り、正しい処置を行うためのもの。
これらの反応や動作は、インストラクターがタッチパネルで操作できる。
前身となる「昭和花子」よりも軽量化を実現し、身長160cm、体重56kgというリアルな女性に近づいた。造形のリアルさやロボットとしての性能だけでなく、消耗品の交換と保守性、耐久性の向上も図っている。昭和花子2は、発表以来国内だけでなく海外からも注目を浴び、世界各国の大学や医療メーカーが見学に訪れ、販売も拡がっている。

2.老人介護練習用ドール「とめさん」
介護実習用として提案
超高齢社会に突入している日本。年をとれば、誰しも人の手を借りなければ生活ができないのが現実だ。そんな超高齢社会を支えるのが、介護業界に携わる人たち。介護福祉士などの国家資格を目指す人は、年々増えている。
オリエント工業が医療・介護分野で働く人の助けになりたいと考えて製作したのが、老人介護の練習や実技を目的として作られた「とめさん」だ。
老人らしい造形の高機能ドール
とめさんは通常のドールと違い、老人らしい顔立ちやボディの自然な造形が特徴。
ボディは柔軟なシリコンで作られており、人肌の質感を再現している。さらに、オリエント工業が開発した内部骨格によって、さまざまな自然なポージングをすることが可能。抱え上げ、抱き起こし、ベッドから車椅子への移動、車椅子からバスユニットへの移動、ベッドシーツの交換など、さまざまな移動介助の実習に使用することができる。
ある程度重量があるため、実際の介護に近いシミュレーションが可能だ。
また、福祉関連のイベントなどで、車椅子や老人用バスユニットの実演用ダミーとしても高い効果を発揮する。
ボディ部分はシリコン一体整形になっているため、耐水性を備え、入浴介助の実習で石けんや洗剤などを使うこともできる。
排泄機構によって、汚物の洗浄やオムツ交換など、排泄介助の練習もできる。
いたわりの心が生まれる
介護の現場で大切なのは、介護される人の気持ちを考え、思いやりやいたわりの心で接すること。前述した「昭和花子2」と同様に、介護実習にも臨場感が大切だ。
とめさんと相対すると、まるで本物のおばあさんがそこにいるかのよう。実際にお年寄りと向き合ったときのように、相手をいたわろうという気持ちが自然にわいてくる。
単なるモデル人形ではなく、リアリティのあるドールを使用することで、生きた介護実習を行うことができるのだ。






