
1. 「造形師」
「何をしてきたか」が方向を決める
ラブドール製作に携わるようになったのは、気づいたらなんとなく、というのが正直なところ。流されて辿りついたような、必死に漕いできたような、思い返せば多くのターニングポイントがあり、果てしない迷路を選択しながら歩んできたように感じます。
僕自身、ラブドール製作が生業になるとは思っていませんでした。才能があるとかないとか、何が得意か不得意かではなく、これまで生きてきた時間を何にどれだけ割いてきたか、その積み重ねに今があり、これからの方向があるように思います。逆をいえば、向いていないと思い込んだり、無理だと決めつけてあきらめたりすれば、その先の方向も変わっていったでしょう。
子供の頃から人形に魅せられた
生まれは北九州市の黒崎というところで、「けんか山笠」といわれる黒崎祇園山笠というお祭りがありました。デコトラばりの電飾で、真田十勇土や里見八犬伝などの人形群が飾られた山笠が街中を暴れるのを見て育ちました。
子供の頃は手塚治虫、石森章太郎、松本零士といった漫画黄金時代のど真ん中。その頃の漫画にはダッチワイフやセクサロイドなどが当たり前のように登場していたし、夢中で遊んだおもちゃもGIジョーや変身サイボーグといった間接可動の人形、テレビではサンダーバードやジュサブロー(辻村寿三郎)の人形劇もやっていました。子供の頃に出会ったものには、間違いなく影響を受けているでしょうね。
そういえば、子供の頃に見た資生堂のテレビCMで、山口小夜子さんが伝統人形工芸師や七彩(マネキンメーカー)のマネキンと共演するシリーズにも強烈な印象が残りました。将来人形の造形に携わるという予感だったのかもしれません。
いずれにせよ、幼い頃からの遊びや興味、それから映画にはまったり音楽にのめり込んでバンド活動をしたりしたすべての経験が、人生の舵取りの礎になっているような気がしています。
テレビ業界は間的な輝き
美大を卒業してから、テレビの美術の仕事を10年ほどしていました。
テレビ業界は映像がすべてで、何日も徹夜して作ったものが、収録が終わったとたんに邪魔だからと捨てられたりする。もちろん何メートルもあるセットのオブジェをとっておくわけにいきませんから、しかたないですが。それでも作った着ぐるみをタレントさんが気に入って持って帰ったり、衣装さんが倉庫に保管しているなんていう話を聞くと、うれしかったですね。
3人組のお笑いタレントさんが人命救助のコントで使う等身大のギャル風の人形を作ったことがあります。すごく気に入ってもらえて、地方の営業にも連れ回ったらしいのですが、考えてみれば、あれが僕の作った等身大ドールの第1号かもしれません(笑)。
ドラマでだんだん悪魔のような顔になっていくというアンティークベビードールを作ったときは、「あの人形を譲ってほしい」「どこで買えるのか」という電話が殺到したらしく、テレビの影響はすごいと思ったのを覚えています。
テレビ業界での仕事はおもしろかったし、勉強にはなりました。ただ、花火のように一瞬の輝きで散りゆくものもいいけれど、ずっと大事にしてもらえるもの、本当に必要とされるものを作りたいと、無意識に思いはじめていました。そんな思いから、ラブドール製作に携わるようになりました。
想像を超えてくるドールたち
僕は主に頭部の造形を担当しています。
この仕事のおもしろさは、作ったものがどんどん変化して自分の想像を超えていくところ。自分の作った原型が、メイクを施され、ウイッグを被り、衣装をまとい、演出をされてポーズをとる。思ってもいなかった姿で再び対面することができて、毎回驚かされます。
お客様のところでどんな風に暮らすのかを想像しながら製作するというワクワク感もあります。
僕は、ドールたちには未知の可能性があると思っています。たとえば『VOGUE』などのモード系ファッション誌にモデルとして登場して、「このモデルは誰?」と噂されるようなサプライズはおもしろいんじゃないかと思ったりします。
造形の可能性は無限大
どんな顔を作るかという発想のためには、とにかくマメにグラビアなどの資料を集めています。アトリエにはライフマスクがたくさん飾ってあって、知らない人が見たら引くでしょうね(笑)。
造形のプロセスは、決定した企画に沿って顔のパーツを組みあわせ、バランスをとりながら違和感のない自然な造作を目指していく、というもの。ただ、時間が経つにつれてあそこもここもと直したくなります。時の流れとともに自分の見方も変わっていくし、世間一般の視点も変わりますから。
国によって理想の顔も全然違うし、好みの顔も人それぞれ。完全に同じ顔をした人もいない。造形についても無限大ですから、100%満足できるものなんて、一生かけてもできないかもしれませんね。
思いを込めて表情を刻む
魅力的な顔というのは、完璧な美人ではありません。左右対称で整った顔立ちの、スタンダードな美人を作ろうとすると、マネキンのようなつまらない顔になってくる。最初は「すごい美人だね」と目を引いても、すぐに飽きられてしまう。よく「美人は3日で飽きる」なんていうけど、まさにその通りです。
表情は右脳・左脳に大きく関わっていて、右半分の顔は「よそゆきの顔」、左半分の顔は「ホンネの顔」だと言われています。特に女性は右脳と左脳の連携をとる脳梁が男性にくらべて大きく、さらに複雑になるそうです。
チャーミングな顔というのは、感情が表れたときのちょっとした表情だったりしますよね。また、「好みの顔じゃないけど、この写真の表情はいいよね」とか「このチャームポイントがあるからこそ魅力的なんだよね」ということはよくあります。
ただ、そういったプラスの要素ばかりを並べて顔を構成したとしても、どこかバランスを欠いて、いつのまにかすべてがマイナスに働きはじめて、不自然な顔立ちになるということもよくあります。
会話の瞬間にふと感じる魅力的な表情のエッセンスのようなものを、造形に刻む。これはテクニックやノウハウだけの問題ではない気がします。「この娘はこういう気持ちであなたを見ている・接したいと願っている」という思いのようなものを込めて刻むというような、極めて原始的で精神的なもの。3Dプリンターのようなデジタル情報で生み出すのは難しいような気がします。
ある母親と亡き息子の胸像
学生時代、彫刻の先生にこんな話を聞いたことがあります。
ある母子家庭の母親が、不幸にも幼い息子さんを交通事故で亡くしてしまった。母親は昼夜働きづめで、あまりそばにいてあげられなかった。強く育ってほしいという思いから甘やかさず、息子を抱きしめてあげた記憶がほとんどなかったそうです。でも、事故で無残な姿になった遺体は、抱きしめられるような状態ではなかったということ。「もう一度思いきり抱きしめてあげたい」という思いから、仏壇に遺影ではなく胸像を飾りたいと、先生は母親から製作を頼まれたそうです。
でき上がった鏡像を見て、息子さんをよく知る親戚の人たちは「本当にそっくり。まるで生きているようだ」とほめてくれましたが、肝心の母親は浮かない顔で、「息子に見えない」と言うのだそう。そこで先生は預かった写真の中から「お母さんの一番好きな写真はどれですか?」と選んでもらい、その写真だけを元にして作り直した。新しい鏡像は、親戚一同からの評判は悪かったそうですが、母親だけは涙を流して感謝したそうです。
その理由を先生に聞いてみると、次のように語ってくれました。
「最後に選んでもらった写真は、他のものとまったく違う表情に見えてね。普段は気丈に振る舞うよくできた息子さんだったそうだけど、この表情はふとした瞬間に唯一母親だけに見せる、心を許せる深い愛情のようなものを感じて、その一心で作ったんだよ」技術は追いつけなくても、僕もそういった気構えだけは持っていたいと思っています。
安易な工業製品であってはならない
オリエント工業の強みは、ラブドールを商品としてとらえているところだと思います。スタッフ一同、自分の作品ではなく、手にしたお客さまによろこんでもらえることを第一に、創意工夫を続けている。
だから新しい企画を考えるときは、ボディにしても、顔立ちにしてもさまざまな意見が飛び交って、いつも喧々諤々です。たとえば、「どうしてそこまでバストを大きくしなければいけないのか?」「あまり幼い顔立ちにするのはおかしいんじゃないか?」とか。販売戦略にしても「中性的なものにすれば女性のユーザーも増えるんじゃないか?」などなど。いろいろな意見があるのでまとめるのは大変です。ただ、それだけみんな真剣に考えて、もの作りに携わっているということです。
もちろん、僕自身にもこうしたい、ああしたいという要望はあります。ただ、営業サイドがお客様の心のケアまで考えているように、個人的な願望以前に、僕らはお客様の要望に応える一工業デザイナーでなければならないと思っています。
そう思えるようになったのは、お客様の手紙を読ませていただいたり、話を伺う機会があったから。考えていた以上に性への悩みは深く、繊細なもので、普通に暮らしていると見えてこないけれど、ぽっかり空いた心の欠片を埋めるような、大事なテーマであるように感じています。この会社にいなかったら、僕は自分の思いばかりを表現しようとする、独りよかりの作家のままだったかもしれません。
自分たちが提供するラブドールによって、誰かが楽しい、明るい気持ちになれたり、前向きになれたり、少しでもならぎを感じられたりするなら、これほどうれしいことはありません。
ラブドールについては、単なるおもちゃとか、観賞用とか、さまざまなとらえ方があると思います。でも、単なる人形ではなく、誰かの人の心に深く関わる、心の支えになりうるものですから、安易な工業製品で終わらせてはいけないと思っています。
今回は40周年記念ということで語りすぎてしまいましたが、ふだん僕は取材などを極力受けないようにしています。
なぜならお客様にとって、作り手の背景などどうでもいいものだから。何の演出もされず、何の色にも染まってない、純粋無垢な天からの授かりものを送り出したいという願いがあるからです。
お客様の手に渡って初めて色づき、性格や人格が形成され、育っていく。そういうドールを作るのか、僕らの使命です。
2. 「ドールディレクター」
中庸の美しさとは
僕らが美しいと感じる人間のバランスと、美しいと感じるドールのバランスには少し違いがあります。
つまり、誰が見てもきれいだなというスタイルの女性を、そっくりそのままドールにしたら、なんとなく間が抜けたような感じになってしまうのです。
ですから、ラブドールのプロポーションを決めるときは、ある程度のデフォルメが必要。バランスについては、ドールが美しく見える法則のようなものがいくつかあります。たとえばですが、ひざ下、ひじ先を少しだけ伸ばしたり、ウェストをくびれさせたり、変化を加えることで自然な美しさになる。ボディの造形については、そういった表現の強弱が必要です。
ただし、どこを何パーセント伸ばすとか、何センチにするといったように数値化しているわけではありません。視覚で確認して、少しずつ調整しながら仕上げていきます。
ちなみに、やすらぎシリーズは実際の女性から型取りしたので、そのままの印象を、人間くささというか「生(き)」が醸し出す要素を消さないように心がけて製作しました。
絶対的な理想よりも、中庸を保つこと
僕は主にボディの造形や、開発や生産のスケジュール管理の仕事をしています。造形については、ベースとなるボディの型作りやギミックの部分。地味な作業ですが大切な工程なので、ひたすらていねいに、きちんとしたものを作ることを心がけています。
製作段階では個人の裁量にゆだねてもらえるところは大きいけれど、造形担当が作りたいものを好きなように作っているというわけではありません。
というより、ラブドールを造形するうえで、自分がいいと思うものよりも、中庸を保てるように心がけています。それが、多くの人に受け入れられやすいフォルムやバランスになるのだと思います。
オリエント工業はラブドールメーカーとしてはそこそこの規模で、スタッフの数も多いので、いろいろな意見やアイディアも出てきます。ですから、頭部もボディも、企画段階で相当揉まれます。議論を重ねて、しっかりコンセプトを決めてから、実際の製作がスタートする。組織として役割分担があり、それぞれが自分のやるべきことを遂行するからこそ、生産性を上げられるのだと思います。
染めるものでなく染められるもの
お客様が求めるものに、できるだけ応えるというのがオリエント工業の基本方針。
制約がある中でベストなものを作るということになりますが、そこに楽しさもあり、制約があることによって、作り手のスタンスも変わります。
いわゆる創作というのは作り手の自我というか、魂のようなものが作品に表れるものですが、ラブドールでそれが見えたらお客様は気持ち悪く感じてしまいますよね。製品の特性上、できるだけ作り手の自我は表れないほうがいい。自分の作品ではなく工業製品を作るのですから、それは大切なことだと思っています。
それに、自分の好きなものばかり作ったら、どうしても自分らしさのようなものが出て、似たり寄ったりなものばかりになってしまいます。決められたプロダクトに沿うものを作るという意味では、デザイナーに近いかもしれません。
作り手の特徴をあえて消すことで、お客様の色に染まりやすいというか、誰からも愛される秘訣になっているのかもしれません。オリエント工業のラブドールの魅力は、そこにあるのでしょう。
オリエント工業のラブドールは、もともとは透明で、所有する人に染まっていくイメージ。
だからこそ、新しい可能性があるとも思います。たとえばパーティドールや人形家具といった新しい取り組みもできるし、さまざまなアートや商材とのコラボレーションも可能です。これからはそういった可能性の幅を広げられたらと思っています。
造形に携われる貴重な仕事
僕は大学院へ進学する前の春休みに、アルバイトとしてオリエント工業で働きはじめました。
美大生向けのアルバイトって、ゲーム関係やデザイン関係、もしくは予備校講師が多くて、なかなか造形に関われるようなものがない。僕は彫刻科だったので、大学にあった「等身大マネキンの造形」というアルバイトの求人票を見て、技術も磨けるし、学べるし、場所も大学に近いしで、これはいいなと思ったんです(笑)。
面接ではじめてアダルト商品だとわかったけれど、当時は樹脂を使った造形に興味があって、この会社にいれば新しい情報も入ってくるというメリットもありました。会社の居心地もよかったから、卒業後も他の仕事に就こうとは思わず、気づいたらそのまま続けていました。
彫刻科を出て造形をやりたいと思っても、技術を発揮できるキャリアを見つけにくい現実がある中、ラブドール製作という仕事に巡り会えたことは、僥倖だと思っています。
3. 「ドールメイク」
人間のメイクとは真逆
やはり人間のメイクとドールメイクはかなり違います。
普通のメイクは、ファンデーションやコンシーラーで肌を整えて、アイメイクをして、チークを入れて、口紅を塗って・・・・・・という感じですよね。
対して、何もしていない状態のシリコンの頭部は、当然ですが色が均一です。つまり、しわやくすみがまったくない状態。ですから、あえてくすみや凹凸のようなものを着彩で表現します。
普通のメイクでは、目の下のクマや小鼻のまわりのくすみはコンシーラーなどでできるだけ隠しますよね。ドールメイクの場合は、普通隠そうとするクマやくすみを入れていくわけです。ほんのわずかですが。通常のメイクとは逆のことをするのですが、それによって生々しさや息づかいのようなものを感じられるよう心がけています。
また、人間と違って、ドールは動きません。生きている人間はコロコロと表情が変わることで、独特の印象になりますが、動かないドールは、その表情で印象が決まってしまう。動かないドールに人間と同じようなメイクをしてしまうと、不自然なものに感じてしまう可能性があるわけです。ですから、うまく言えませんが、少しファンタジーの部分を残すようにしています。
あえて想像の余地を残す
ファンタジーの部分というのは、決めつけないというか、説明しすぎないという感じでしょうか。ラブドールの表情というのは、映画のラストシーンと同じように、見る人によってさまざまなとらえ方があると思います。そこで、あえて想像の余地を残すというか、ぼんやりとした部分をとっておくというイメージかもしれません。
それから、女性誌などの最先端のメイクも素敵ですが、ラブドールのメイクではあまり重要視しません。あくまでも男性目線で、普遍的に心の中に留め置く女性像というのが基本的なコンセプトですから、メイクも表層的なものではなく、内側にある芯のようなものを表現するようにしています。
街中の美人を見つめるのが癖に
最初にどんなメイクにするかを考えるときは、その人形のコンセプトや資料に基づいて着彩を考えます。資料はイメージに合った人物の写真やキャラクターのもの。最初はシリコンではなく原型にメイクを施すという作業があるので、シリコンという素材に合うような着彩を考えながら行います。
ディテールを工夫する訓練の一環として、普段から人の顔をよく観察するようにしています。モデルさんや女優さんといった、メディアに登場するきれいな女性を見るのも大切ですが、街中の生のきれいな女性を見ることが何よりも参考になります。実際に自然に動いている表情の中で、どんなところに影ができるかなどをチェックするわけです。
メディアはどうしても平面の画像や映像なので、生身の女性を3Dの立体で見るのはとても勉強になりますね。とくに、何気ない表情、作っていない素の表情を見るのが好きです。
最近では趣味のようになってきて、きれいな女性がいるとじっと見てしまう癖がついているかもしれません(笑)。
ドールメイクはコツコツ作業
ドールメイクという仕事は、ある程度技術が必要ではありますが、性質的な向き不向きもあるかもしれません。毎日コツコツと少しずつ色を重ねていくという作業の繰り返しなので、常に変化を求めるような仕事がしたい人には向かないかもしれません。私の場合、ドールの着彩という作業も好きですが、続けてこられたのは自分の性質に合っていたという部分も大きいと思います。
作業のコツというほどではないですが、一体一体すべて手作業なので、極力個体差がないよう気をつけています。寸分の狂いもないというのは難しいですが、そのドールのコンセプトを忘れないように、印象がぶれないように注意します。
それから、ラブドールという製品の性質上、お客様がづいて顔を見ることも多いと思います。ですから、お客様の世界観を邪魔しないよう、筆跡のようなもの、つまり作った痕跡が残らないように気を配っていますね。
人間にはない魅力を引き出したい
お客様の中には、ドールの画像をブログやSNSにあげてくださる方もいらっしゃいます。「大切に扱ってもらっているんだな」とか「ああやって暮らしているのか」と思いながら、影ながら拝見するのを楽しみにしています。普通の人形はガラスケースなどに飾られるものですが、ラブドールは生活を共にするという感じなので、大切にされている様子はやはりうれしいですよね。
ドールメイクは、いかに生きている人間に近づけるか、リアリティの追究がテーマのようなところがあります。そうなると人間が一番魅力的ということになってしまうので、今後はあえて人間にはない、ドールならではの魅力を出せればと考えています。
4. 「ポージング」
自分自身でポーズをとってみる
同じドールでも、ちょっとしたポーズの違いで、生きているようにも死んでいるようにも見える。ですから、ドールを愛でるうえでも、ポージングは大切です。
ポージングで重要なのは、ドールにさせたいポーズを、自分でやってみること。不自然に見えるポーズは、実際に同じポーズをとってみると、無理があります。
重心はどこにあるのか、あご先や肩先の向きはどうするか、右足左足のどちらを前に出すかなど、自分で同じポーズをとってみることで、自然なポージングがわかります。
ポーズを決めるときは、骨盤の向きも大切。まず骨盤の向きをきちんと決めてから、手足、首、あご、指先といった細かい部分を決めていきます。
いずれにしても、ポージングの際は、自分でポーズをとってみて、それをトレースするという作業をしていきます。ドールのポージングがうまくいかないという人は、ぜひ、自分でやってみてほしいと思います。男性でも基本的な人間の骨格は同じですから、問題ありません。
私は現場でしょっちゅう乙女のようなポーズをとっているので、一時はオカマ疑惑が浮上してしまいました(笑)。
私はフィギアも好きですが、最近は可動するものも多いですよね。フィギュアもラブドールと同様、実際に自分で同じポーズをとることで重心のバランスなどが理解できますから、かっこいいポージングができるようになりますよ。
指先で繊細な感情を表現する
「神は細部に宿る」などとよくいわれます。細部というのは、指先、つま先、あごの動きなどのこと。特にラブドールのポージングをするうえで、指先の表現はとても大切だと感じています。指関節オプションをつけたドールは手指を曲げることができますから、かなり繊細な感情表現が可能です。
たとえば、中指にほんの少し角度をつけて恥じらいや緊張を表現したり、軽く握ることでとまどいを表現したり、小指を少し上げてよろこびを表現したり……。さまざまな感情が指先ひとつで表現できます。
ドールになりきってイメージする
撮影などではテーマやシチュエーションが決まっている場合が多いですが、エロく見せたいとか、純粋さを表現したいとか、多少しばりがあったほうがおもしろいですよね。
たとえば、裸だけど乳首を見せたくないなら、両腕を寄せ気味にしながら、髪の毛を使って自然に隠したり。表現したいテーマに沿ったうえで、ありきたりでない、「おっ」と思えるようなポーズを心がけています。どんなポーズにするかを考えるときは、ドールの気持ちになりきります。緊張しているのか、うれしいのか、恥じらっているのか……。
ポージングというのは、その対象がどんなことを考えているのか、その心を体で表現するということ。彼女はどんな気持ちでここにいるのか、ドールの魂を自分に憑依させて、まざまなポーズをイメージします。
表現物からポージングのヒントを得る
ポージングを極めるために、日頃からさまざまな表現物に触れるようにしています。映画やドラマ、ミュージカルなどの舞台、絵画、漫画、イラスト、フィギュアなど、さまざまな表現方法に触れることで、発想やバリエーションを磨くことができます。
私自身は多少オタク的要素のある人間なので、何ごとも突き詰めようとするところがあるように思います。たとえば漫画を読むときも、「ここのコマ割りは、一度引いてから再度アップになって、次に迫力のあるアングルから攻めるように描いていてすごい!」なんていう一歩引いた、創作者目線で見てしまう。もしかすると、その突き詰め方がポージングにも生きているのかもしれません。
私はもともとラブドールの骨格の開発・設計などを担当しています。実は撮影時のポージングも担当するようになったのは、途中からなのです。誰よりも構造がわかっているので、「もっといいポーズができるはず!」と、ポージングも担当するようになったという経緯があります。
オリエント工業のドールは、骨格だけ見ても美しくて、かっこいいんですよ。シリコンボディの機構上、多少の制限はありますが、さまざまなポーズに対応できるように設計しました。自然なポーズで自立ができるラブドールは、世界的に見ても稀だと思います。
人形と心を通わせられる日本人
日本には古くから「万物に魂が宿る」というアニミズムの精神があります。つまり草履や石ころなど、すべてのものに神や魂が宿るという考え方。キリスト教はもともと十戒で偶像崇拝を禁止しています。神でないものが人のようなものを作るというのは、神への冒涜であるという概念があるのでしょう。
そのため、外国人は人形をモノとしてとらえる傾向があるように思いますが、日本人はみんな、生きている人のように、愛情をもって接する。だから、物体である人形に愛情を傾けるだけでなく、実際に心を通わせることができるのだと思います。






