「ガガドール」プロジェクトスペシャル座談会

「ガガドール」プロジェクトスペシャル座談会

誰を作るのかもシークレット

デザインディレクター T:ガガドールのプロジェクトは、製作進行がアートディレクター O、メイクがメイクアップディレクター K、ポージングがポージングディレクター K、原型製作が私という役割だったよね。

アートディレクター O:そうですね。全体の進行に関しては私が担当していました。

デザインディレクター T:確か最初は「誰を作るのか」さえ伏せられての依頼だったはず。

アートディレクター O:そうそう。クリエイター集団である企画会社さんから話があって。誰を作るかは伏せたままで、現実的に可能かどうかという相談から始まりました。

デザインディレクター T:費用や期間の条件がクリアできそうと踏んだところで具体的な話になって、初めて何をやるかと教えていただいたと。

アートディレクター O:レディー・ガガの「等身大試聴機」というユニークなコンセプトの企画で。オリエント工業で製作したドールに骨伝導システムを組み込んで、ドールの胸に耳を当てると、振動でレディー・ガガの曲やメッセージを聴くことができるという。

メイクアップディレクター K:ただ、製作期間はタイトでしたよね。

デザインディレクター T:実質的な原型の制作期間は10日くらいだったから、かなりタイトだったよね。当初は迷ったけど、うちがやらなければ企画が流れるということで、引き受けることになった。

短期間で仕上げても、結果はオリエント工業の評価になるというリスクもあるけど、チャレンジしてみようということになったんだよね。話題にもなるだろうし、おもしろそうな仕事だし。

アートディレクター O:骨伝導で音楽を聴かせるというのももちろん、目的がセールスプロモーションという、通常のオリエント工業の製品とはまったく違っていたからね。

ポージングディレクター K:完成したドールについては、ものすごいクオリティでしたよね。

デザインディレクター T:ただ、世界的なスターを作るからといって、緊張感みたいなのはなかったかな。誰かに似せるという意味では、亡くなった奥さんの写真からドールを作ってほしいという依頼もあるし、モチーフが大スターであろうとも、いざ作りはじめてしまうと同じだったよね。

グレイジーなラブドール企画で高いハードルをクリア

メイクアップディレクター K:もともと、どんなきっかけではじまったプロジェクトでしたっけ?

アートディレクター O:来日するレディー・ガガのために、音楽制作会社(以下M)さんが何かプロモーションをやりたいということで企画会社さんと組んで、企画会社さんがオリエント工業のドールを使っておもしろいことをやろうと企画したわけです。

デザインディレクター T:でも、普通はアメリカ本国、つまりガガサイドにはそう簡単に許可が取れない。レディー・ガガに関しては世界中からいろいろな企画が上がるらしいけど、ものすごくハードルが高くて、ほとんどが企画段階で門前払いを食らってしまうらしい。

アートディレクター O:で、Mさんが本国にこの企画を提案したら、「なんだこのクレイジーな企画は!」ということで、なぜか通ってしまったと。

デザインディレクター T:ラブドールで作るというのを、おもしろがってくれたんだろうね。

アートディレクター O:まずはそのクレイジーさにOKが出たようで、このプロジェクトがはじまったんだよね。

ポージングディレクター K:オリエント工業って、いわゆるダッチワイフを作っている会社なんだけど、社外の人から見ると、ファンタジーでファンキーな会社っていうイメージがあるみたいですよね。

アートディレクター O:ただ、この企画を進めていいかどうか、という第一段階のOKをもらっただけであって、最終的な承認が下りたわけじゃなかった。

デザインディレクター T:製作のGOサインが出るまでにも、時間がかかったよね。

メイクアップディレクター K:製作期間も短いし、なかなか最終的な承認が下りないし、もしかしたら頓挫するんじゃないかとヒヤヒヤしていましたよ。

本当の承認が下りた瞬間

アートディレクター O:何しろドールが完成して、ガガが来日する当日になっても、まだ最終的な承認が取れていない状況でしたから。

ポージングディレクター K:ガガの来日に合わせて都内の某ホテルでサプライズを仕掛けたんですよね。ガガドールを展示するためだけにスイートルームを借りて、スタッフ総出で完璧にスタンバイして。本人は日本到着後にそのホテルへ直で向かうから、立ち寄ってもらおうということで。

デザインディレクター T:本人が気に入れば最終的なOKになるから、直接見せてしまおうという作戦だったわけだよね。

ポージングディレクター K:でも、その日は疲れているということで、見てもらえなかった。

アートディレクター O:たくさんのお金とたくさんの人が動いていたプロジェクトだけど、本人の承認がとれなければ、ドールが公に発表できないという状況だったからね。

ガガ来日!サプライズの結果は?

ポージングディレクター K:あのときは、まさに「人事を尽くして天命を待つ」という気分でした。

アートディレクター O:来日当日のサプライズは実現しなかったけど、後日見てもらった結果、大いに気に入ってもらえた。ガガがツイッターでガガドールと一緒にいるところを公開した瞬間、承認が下りたことを意味していて。あのときは、関わったスタッフ一同、本当によろこび合ったよね。

デザインディレクター T:最初にガガのお父さんが見て、これなら娘に見せていいということになったらしい。

アートディレクター O:プレゼンのときホテルの部屋では、ガガ本人はもちろん、本国のチームの人たちもドールをじっくり見てくれたみたい。たとえばメイクで細かく作り込んだほくろのわずかなふくらみとか、そういった部分も気づいて感激してくれたらしい。ガガが後日記者会見で、ドールに対面した瞬間はワーッと盛り上がって語り合ったり記念写真を撮ったり、その空間の中でドールはツールとして存在していたけど、しばらくすると皆見入っていて、いつの間にかドールはその空間で中心的存在になっていた、この変化はアートの力によるものだと思う、って言ってた。

苦労したヘアスタイルのやり直し

ポージングディレクター K:ガガドールは、髪のこだわりにも相当なものがありましたよね。でも、メイク班が一本一本植毛したのに、作り直しがあったり。

メイクアップディレクター K:そういえば、そんなこともありました。

ポージングディレクター K:最初はワイルドなライオンみたいなへアスタイルだったのが、ストレートのおかっばに変更になったんですよね。

メイクアップディレクター K:そうでしたね。

デザインディレクター T:当初そのライオンヘアでメイキングやスチール写真を撮ったよね。お蔵入りになったけど。当時のガガのイメージはストレートだということで。

メイクアップディレクター K:どうやってストレートヘアにしたんだっけ?

アートディレクター O:覚えてないんですね(笑)。4体準備していたから、残りの3体で対応したんです。

ポージングディレクター K:複数回にわたる撮影に場所の確保やスタッフのスケジュールを合わせるのがなかなか大変でしたね。

アートディレクター O:それでもガガサイドの承認は、そう簡単にとれなくて。

ポージングディレクター K:たしかに、これが海を隔てた、世界的な相手との仕事なんだなと思いましたよね。

ガガドールとラブドールのメイクの違いは!?

ポージングディレクター K:メイクについては、メイクアップディレクター Kさんがいろんバージョンを模索していて、ペンキをつけたようなものまでトライしていましたよね。

メイクアップディレクター K:ペンキをつけたようなメイクはアルバムのイメージだったんです。当初はどんなイメージでやるかはっきりしないまま進んでいたので。でも、時間だけがどんどん迫っている状態で、急に「このイメージで」って経験のないものを要求されたとき、できませんとは言えないと思って。通常の業務の合間に、いろいろなメイクのパターンを試していました。

アートディレクター O:どうすればOKがとれるかわからなくて、なかなか具体的な指示が出なかったんですよね。手探り状態のまま、時間だけが過ぎていく感じで。

メイクアップディレクター K:たしかに制作期間は短かったけど、メイクに関しては企画会社さんが資料をたくさん準備して、手厚くサポートしてくださったので助かりました。ただ、普段は日本人のドールのメイクをしているから、外国人の女性の顔、しかもレディー・ガガということで、ガガらしさを出すのに苦労しました。印象を似せるのが難しかった記憶があります。

アートディレクター O:外国人のメイクと日本人のメイクの違いって?

メイクアップディレクター K:欧米人の立体的な顔の形と日本人の平面的な顔の形との違いもありますが、普段作っているドールたちって、男性に気に入られる要素が多い顔立ちでしょう。ガガらしくということは、意志の強さや、個性の強さを出さなきゃならない。そういうメイクは慣れていないから、少し苦労したかな。

デザインディレクター T:ラブドールのメイクは、お客さまの好きな色に染めてくださいっていうスタンスだからね。

アートディレクター O:たしかに、メイクは対極に近いかも。

一番のお気に入りは花魁スタイル

メイクアップディレクター K:結局4体お見せしたんでしたよね。服はどんな感じでしたっけ?

アートディレクター O:貝殻をあしらったクールな白のスーツと、アルバムのイメージに合わせたカラフルな感じのものと…。

ポージングディレクター K:本国のデザイナーがスポーツ紙の記事で作ったタブロイドドレスもありましたよね。そしてもう1つ、着物を着た花魁風のガガ。

これはボツになったワイルドなライオンヘアのドールを現場で花魁風にアップにしたもので。

デザインディレクター T:ガガドールプロジェクトで準備したのは3体だけど、ホテルでのサプライズでもう1つ作ろうって提案したんだよね。

大湯:そうそう。たしか花魁の案を出したのは土屋社長だった。ちょうど1体あまっていたから、あまった4体目を使って何かしようということで、オリエント枠のような感じでやらせてもらった。

デザインディレクター T:高いヒールが高下駄というイメージにも合っていた。

ポージングディレクター K:ホテルの部屋で急遽メイクやヘアをやって、ポーズも決めて、現場ではじめて完成したんですよね。

デザインディレクター T:日本らしさ、目新しさということで、ガガ本人は最終的に花魁バージョンをいちばん気に入ってくれたらしいよ。

ポージングディレクター K:あのときはそういったウルトラCも発生しました。

レディー・ガガならではのポージング

ポージングディレクター K:オリエント工業の全戦力を注いで、メイクや髪の毛まで完璧に仕上げたガガドール。これを撮影スタジオやテレビ収録でポーズを決めるのが私の役割でした。

メイクアップディレクター K:広告代理店さんやクリエイターの方々が見守る中でのポージングは、緊張したのでは?

ポージングディレクター K:ドールのクオリティが最高だったからこそ、「どや!」っていう気持ちでしたよ。普通なら緊張するかもしれないけど、おもしろくてしかたがなかった。

アートディレクター O:今回は高いヒールを履かせるというハードルもあったよね。

ポージングディレクター K:不安定な体勢でガガらしいトリッキーなポーズを決めるのは、なかなか大変で。それから、新聞で作ったタブロイドドレス。これは座らせることができないから、改造したスタンドで立った状態をキープしましたね。ポージングについては、個性が強いレディ・ガガだからむしろ良かったかも。本人が有名なのはもちろん、「ガガらしさ」というものが共通認識としてあるから、ポーズがイメージしやすかったんです。手をガオーっていう感じにする、例のモンスターポーズとか。もしもケイティ・ペリーだったら、難しかったかも(笑)。

実際に会っていたら顔の造形は違っていた

デザインディレクター T:自分が担当した顔の造形では、もらった資料からあえてクールなイメージを出したけど、実際にレディー・ガガと会ってから作ったら、まったく違う顔になっていただろうと思う。また、当時の彼女と今の彼女でも違うだろうね。

アートディレクター O:写真だけで見ると、親しい人でも別人みたいな雰囲気になったり、その人らしさが出なかったりするよね。

デザインディレクター T:おそらく、それは見る人が自分の感覚、フィルターでその人をとらえているから。ガガの場合もメディアの前ではポージングディレクター K

ピシッとしているけど、スタッフと無邪気に打ち解けて話している姿とか、まわりの人に見せる気づかいとか、実際に素の部分を見るとイメージが変わる。写真やイメージだけで作るのと、本人を知ってから作るのでは、自ずと変わってくるんじゃないかなと思いましたね。

アートディレクター O:たしかに、テレビ収録のスタジオで本人にお会いしたとき、本番前ですっぴんのような感じだったけど、本当にかわいらしくて、きれいだった。

デザインディレクター T:クールなイメージがあるけど、実際に話すのを見ているとかわいらしいんだよね。PVではあえてイメージを守っているんだろうね。

ポージングディレクター K:ガガって、かわいいというよりかっこいいというのが一般的なイメージだけど、とにかくチャーミングな印象でしたね。

テレビ収録中にガガからサプライズ

ポージングディレクター K:我々が立ち会ったのは、日本テレビ系列の「スッキリ!!」っていう番組で。ガガドールに囲まれたガガが、ピアノで弾き語りをしたときですよね。

デザインディレクター T:歌の収録のときは厳しいガガになっていたよね。ちょっとした雑音も気にして、何度も撮り直したり。さすがプロだなと。

アートディレクター O:声量もすごかった。自分は一番離れた出入り口のあたりにいたのに、スタジオ中に生の歌声が響き渡って。

デザインディレクター T:しかも「アプローズ」をアコースティックで歌ったのはあれがはじめてで、世界中から注目されたね。

ポージングディレクター K:このときガガのサプライズで、歌詞の一部が変わってましたね。

デザインディレクター T:そうそう。サプライズで歌詞の「koons」を「doll」に変えて歌ってくれた。

本人からの感謝の言葉に感激

ポージングディレクター K:テレビ収録のとき、ポージングの手直しをしていたらガガがスタジオ入りして、「あなたが作ったのね!」って話しかけられて、ハグをされてしまって。「違う、違う。俺じゃない」って言いたかったんだけど。

アートディレクター O:ポージングディレクター Kさんがいちばんガガに接した人物だよ。

ポージングディレクター K:「これはチームの作品ですから」って言いたかったけど、「いいからそこに座って」となって。本人がガガドールをいかに気に入ったか、熱く語ってくれて、とにかく感激しました。本番前のポージングの最中だったからそれどころじゃなかったけど、上手に返す術がわからない自分がもどかしくて。

アートディレクター O:その心の迷いが伝わったみたいで、ガガドールに関する記者会見で、ガガがポージングディレクター K君のほうを見ながら「私はすばらしいって何度も何度も伝えたの。でも本人にちゃんと伝わっているのかしら?」って言ってたね(笑)。

ポージングディレクター K:「だから俺だけじゃないのに」って(笑)!

ヤフーのトップがガガドールに染まった

ポージングディレクター K:その後の動きもすごかったですよね。

アートディレクター O:ガガドールがさまざまな場面でプロモーションに使われたり、メイキングのトレーラームービーのようなものを作って公開したり。Yahoo!Japanのトップページにガガドールを出現させて特設サイトに飛ばすというのも驚いた。

デザインディレクター T:トップページのバックにガガドールが登場したからね。

ポージングディレクター K:電通さんやパーティさんが仕掛けた企画ですが、Yahoo!がガガー色に染まったすごいキャンペーンでしたね。あのトレーラーを撮ったのもぎりぎりでしたが(笑)。

デザインディレクター T:本当に。広告費いくらかかるんだよっていうね。

話題のガガドールに世界中のファンも注目

メイクアップディレクター K:ガガドールはいまどこにあるんでしたっけ?

ポージングディレクター K:基本的にMさんで管理しているはず。

企画会社さんが1体持っているらしいと聞いたことがあるけど。

デザインディレクター T:世界中のファンから、「ガガドールを売ってくれ」っていうメールがたくさんきたよね。

アートディレクター O:オリエント工業は製造元で、ガガドールの権利はMさんにあるんですって何度言っても「いくらなら売ってくれるのか」って。

デザインディレクター T:うちの工場にあるんじゃないかと思われて、万が一荒らされると困るから、セコムに入ったんだよね(笑)。

アートディレクター O:そうそう。それがきっかけで(笑)。

デザインディレクター T:レディー・ガガ本人も本国に持って帰ろうとしたくらい気に入ってくれて。彼女もクリエイターだから、衣装や造形にも興味を持って、それを作った人のこともリスペクトしてくれるんだろうね。

ポージングディレクター K:作品のクオリティはもちろん、彼女は日本が大好きだから、警戒心がないんだよね。だから終始フレンドリーだった。

デザインディレクター T:この仕事で強く感じたのは、自分たちが作った作品が、どんどん一人歩きして成長していく様な感覚。これはたくさんのスペシャリストとタッグを組んで、大きなプロジェクトに関わったからこそなんだなと。

ポージングディレクター K:一流のスタッフと一緒に、レディー・ガガという世界レベルの仕事に携われたのは、一生の語り草になりそう。本当に忘れがたいイベントでした。

アートディレクター O:このプロジェクトでは、新しいものが生み出され、形づくられていくことへの胸の高鳴りが終始あった。レディー・ガガ本人から心のこもった感謝のお言葉をいただけたのは、みんなが一丸となって成し遂げた結果だと思います。

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